まさか!
こんな場所(ところ)で会うだなんて。
思いもしなかった場所で以前住んでいたマンションの住人、笹々さんにばったり。
4階の住人。
以前わたしはそのマンションの2階に住んでいた。
たしたちの接点は、下にあるマンションの公園だった。
その頃、わたしはお腹の中に’さやか’がいて、その上には優哉4歳がいた。
笹々さんにも息子さんがいたので、お互い子供達をあそばす為に連れて出る下の公園で時々、会話を交わしたことがあった。特にこれといって仲良くしていた訳でもなかったので、印象に残るような会話等、記憶の中に残ってはいなかったけれど。
その少し年の離れた(年上)人の良さそうな笹々さんは、話しやすい女性(ひと)だった。
そして2年前、私と家族はそのマンションから少し離れた場所(ところ)に家を建て、引っ越していった。
このまま、わたしが黙っていれば・・たぶん笹々さんの頭の中では、わたしは今もその引越し先の戸建てに 住んでいることになるのだと思う。
けれど、わたしは迷うことなく ツラツラと今の在りのままの・・自分の姿を彼女に語っていた。
ぷっくらとして平凡だけれど、普通に幸せそうな彼女は少し吃驚したような言葉を挟みながらも、わたしの話に勢いをつけて次へ次へと話しやすくしてくれるかのような、話を促す水先案内人よろしく、上手い具合に言葉を差し挟み話を聞いてくれた。
彼女が知っているわたし・・は、息子が一人と夫がいてもうすぐ産まれてくる子をお腹に持ち、マンションからステップupして一戸建てに移って行った、幸せを絵に描いたような姿だったはず。
けれど、ここ某書店で笹々さんとばったり会ったわたしは、そんなものとは一億万光年程も離れたかのような場所にいる自分だった。
あれから産まれた’さやか’は夫側に引き取られ、息子’優哉’はわたしの実家の両親の元に預けてある。 そう、、一戸建てに引っ越して間もなく、わたしはその家を出ていた。
限界だった・・・・気持ちのない場所で、愛のない生活に耐え切れなくなっていたのだ。心の悲鳴よりもまず、身体が悲鳴をあげていた。 顔中に、身体中に、赤い発疹が出始め・・それらはわたし全体を覆い尽くしてしまう程に広がっていった。
実は、別れた夫は2度めの結婚相手で、息子の実の父親ではなかった。
わたしはすでに最初の結婚でつまずいた、所謂、世間でいうところのバツいちだった。
最初の離婚をした当時、息子を連れて出戻った実家にわたしたちの居場所はなく、半ば無理矢理のような両親の強い勧めで、息子を連れてわたしは再婚した。
両親は体裁ばかりを考える人たちだった。
わたしの気持ちも、、すぐそこにはないわたしの未来も、彼等の頭にはなかった。
その時だけが全てであるかのように・・わたしを追いつめ、再婚相手に私と息子を託した。
行き場のないわたしに、当時選択肢はなかった。
自分自身に負けて好意を露ほども持てない男性(ひと)と私は再度の結婚をした。
そしてまた、その相手からも逃げるように去ることになったわたしに 一体どんな未来があったのだろう? はなから結果は出ていたのかもしれない。
息子と産まれてくる子を持つわたしは、それでも沸々とした気持ちを抱えながら、新しい家で自分の気持ちに気づかないふりをして、生きてゆくつもりだった。
何が引き金になったのだろう?
よく分からない・・・けれど、じわじわと真綿で首をしめられるように・・・気がつけばそこまでその陰が忍び寄っていた・・・。
こんなふうな状況だったので、家を出たのもかなり突発的なものだったと思う。
ほとんど何も持たず、少しの衣類と現金を持って家を出たわたしに待っていたのは厳しい現実。
ようやく落ち着ける先、見つけたのは調理師の免許を生かして働ける仕事。
東京に出て、住み込みで働けるレストランに落ち着いた。 ここまで来るまでがすごく大変だった。 手に何度も小さくではあるけれどヤケドを負うのは当たり前のそれは厳しい厨房で、寒い冬でも夏を思わせるほど常時熱気のある厨房で、わたしは毎日、々、生きるために働いた。
ようやく、少しゆとりもできて携帯電話も持てるようになった。
そんな今、ちょっとした書類の関係でこの街に帰ってきた。
そして、笹々さんに会った、、、この近隣では比較的大きな書店で。
この2年間のことをさらっと話す私に、笹々さんが言った。
「大変だったのね。みんないろいろあるのね。」
「身近で同じように、家を出た人の話、結構最近あるのよねぇ~っ」とも言った。
そのあとで、自分の不満もしっかり話してた、笹々さん。
笹々さんもご主人にはいろいろと不満があるようだ。
わたしの話を熱心に聞いている間に何度か彼女のほうの話も差し挟まれた。
もうさほど若くもなく、子供もいる女性が旦那に不満があるからと言って、おいそれと簡単に出て行ける訳がない・・・そういう常識をたぷりとその脳にインプットしていそうな人だ。
そんな彼女はわたしの話を聞きながら、その瞳にさまざまな感情の色を覗かせていた。
あまり計画もせず、ほとんど突発的にバタバタと息子の手を引いて家を出たわたし。
実家に息子を預けると、わたしはほんとうに一人になった。
お金をほとんど持ってなかったのでレストランに就職が決まり落ち着くまでの数日間・・・が、ほんとに行き場がなくて、死んでしまおうかと思うほどつらかった。
この話と現在の’パパ=パトロン’がいる・・という話をしたとき、笹々さんはその瞳を見開いて、大きく反応した。決して恋人ではない相手。 けれど今のわたしには必要な人。
寂しさというぽっかりと開いた穴を埋める為に、そして生きる為に。 本当に埋められなくて
もいい、埋まっていると錯覚させてくれるそんなものでも、今のわたしには必要なのだ。
そしてそれが、本物ではないがゆえ、この関係に未来などないことは分かっているけれど。
これから先、心から想える男性(ひと)に出会えるだろうか?!
いやっ、こんな青い事、もはや何も期待などしていない自分がいる。
「また、連絡してね・・。」とメモを渡して別れた笹々さんのことを想った。
不満を抱えたまま、自分の気持ちに少し目を瞑って、ひとまず現状維持を保っていくであろうその人のことを。
堅実に生きつつも、まだまだその瞳に希望という輝きをその瞳に宿らせているのを私は見逃さなかった。 わたしのように何もかも無くしていないその人にとって、未来はどんなふうに映っているのだろう。
願うことさえ忘れてしまった私とその人の未来が交差することはもうないだろうけれど。
わたしはあの明るい瞳を忘れない。
※最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
お伝えしたいmessageを 少し分かりずらく書いてしまいました。
いろいろな人生を背負って生きているわたしたち・・・だけど どんな風に生きようとも、きっと明るい未来が待っているよ・・あきらめないで、、と [エール]を贈るつもりで 書かせていただきました。人生 まだまだ捨てたもんじゃない・・・小さな 奇蹟(出会い)はきっと起こるはず。^^