24
気のいい夫婦の元で働いていた真砂だが、田舎に住むご亭主
のほうの母親が倒れた為、食堂を閉めて郷里に帰ることにな
ったらしく、真砂達は収入源が無くなったら、早々にアパー
トにいられなくなるのであたふたしていた。
途方に暮れるふたりに竜司は救いの手を伸べようと決心し
真砂と泉に、ひとまず俺の所に来ないか、と声をかけた。
そんな中、食堂のおばさんがちょうど昼食の為店を訪れた
折に話しかけてきた。
「笠原さん、ありがとう。真砂ちゃんがうちの店にいてくれ
る間は、わたしら元気に頑張らんといけんねって言ってたん
だけど、田舎で独り暮らししてる亭主のお義母さんが倒れて
しまってね。店を畳んだら、ゆくゆくは田舎に帰る事にはして
たんだけど、ちょっと予定が早まってしまう事になって。
わたしら、この子達の事だけが気掛かりで、路頭に迷うよ
うならいっそわたしらと一緒に田舎に連れて行こうかねって
亭主と相談してたんだよ。
もし、手に負えなくなったりしたら、わたしらに連絡ちょう
だい。出来る限りなんとか力になってやりたいから。」
「おばちゃん、判ってる。仔猫がとりもった縁だけど、これ
も何かの縁、このふたりがまさかの時は支えてやりたいって
実は前から思ってたから。」
僕のこの返事を聞いて、おじさんとおばさんはほっと
したようだった。そしてちっこいふたりも、可愛い4ツの
目で僕を見上げてほっとしたのかウルウルさせている。
そうおばさんは言い残してご亭主と一緒に郷里に旅立って
行った。
後から真砂に聞いたんだが、おばさんたちはアパートを追い出
されないよう、半年は住んでいられる位のまとまったお金を
持たせてくれていたらしい。
おんぼろアパートのほうの解約やらなんやら手続きをして
翌月からふたりは僕のマンションにやって来た。
そして3人と1匹の生活が始まった。
真砂は今、アルバイトを探しているところで合間を縫って
家事をしてくれている。弁当も出来る限り頑張って
作ってくれている。真砂の作ってくれる弁当は素朴だけれど
栄養があっておいしかった。役所では、笠原くん彼女できた?
なんて何人かに聞かれた。
彼女?そだな彼ではないわな、などとひとりごちた。
同僚には今親戚の子と住んでるので、と説明しておいた。
半年が過ぎ、気が付くとこの生活に居心地の良さを感じて
いた。
しかし、夫婦でもないのにいつまでもこのままじゃ、いられ
ない。きっとまだまだ子供のような真砂は自分とはとても
じゃないけれど結婚相手に、見る事ができないだろうし。
2人を引き取って一緒にこの先ずっと暮らすにはどーすれば
いいのだろう。そんな事ばかり考えるようになったある日
ふたりを前にある提案をした。
僕は君達と養子縁組したいと思ってる。この先も一緒に暮ら
していけるよう。どーかな?弟の泉は無邪気に喜んだ。
姉の真砂は浮かない顔だ。
「養子縁組って私達、竜司さんの家族になるの?」
「そうだよ。」
「私は妹で泉は弟になるの?」
「そうだね、そんな風な感じで良いと思うよ。イヤかい?」
「ゼーンゼーンいやじゃない・・・僕は」と泉が言う。
「あたしは・・・・。」
「あたしは! イヤかい?しばらく考えたらいいよ。」
ふたりは風呂に入って寝支度を始めた。
真砂にイヤと言われるとは思ってなかったので正直、少し
凹んだ? イヤ、かなり凹んでるな、俺。
ベランダに出てそんな風に凹みまくっていたら、いつの間に
か弟を寝かしつけた真砂が側にいた。そして僕の腰にしがみ
ついてきた。
「えっ、どーした?」
「竜司さん、あたし家族になりたいって言ってくれてすごく
うれしかったよ。」
「そーなの!なら良かった。」
「良くないよ・・・良くない。ねぇ、あたしをお嫁さんに
してくンない?だめ?子供っぽいから駄目かなぁ。ただの
家族じゃなくて竜司さんの奥さんがいい。ゼッタイセッタイ
奥さんがいい。」
そう言って真砂は泣いた。
「なぁ、こんなおじさんが旦那さんでいいのかい?」
「うんっ、おじさんでもおじいさんでも・・・なんだっていい、
竜司さんがいい。」
「仔猫に甘えられて悪い気はしないね。じゃぁ、養子縁組は
泉として、真砂とは結婚するとしよう。だからもう泣かない
で。」
「だめっ、うれし過ぎて涙が止まんないンだから、もうしば
らく泣かせて!」
「はいはい、お嬢さん。僕の胸でお泣き。」
僕はそう言って胸の中に真砂を包みこみ、抱きしめ囁やいた。
「今まで小さい弟を連れてよく頑張ってきたね。これからは
僕が付いてるから大丈夫だよ。それに僕だけじゃない、僕に
は頼れる兄がいるからね。万が一僕に何かあっても、君は
もうひとりじゃない。僕の兄を頼ればいいからね。兄の奥さ
んもやさしくていい人だよ。」
僕はすぐに保険の受け取り人を真砂の名前に変更し、すぐに
入籍を済ませた。
黒崎さん程好きになった人は今までにいなかったし真砂に
対する気持ちにあの時のような恋情は正直言って無い。
だけど愛しい気持ちは誰にも負けない自信がある。もう
望めないと思ってた幸せを僕にくれた女の子。
黒崎さんとの事を後年真砂に話したら、彼女はこう言った。
「あたし、あかねさんって人に感謝してる。だってあかね
さんが竜司さんを振ってくれたお陰であたし、竜司さんと
出会えたんだモン!」
3人と1匹で暮らし始めてから、別の部屋で寝るようにして
た真砂の弟の泉が寝付かれないと言っては、僕ら夫婦の
部屋にやって来る。僕を挟んで川の字になるのだ。
ふたりとも僕の側でうずくまるようにして眠る。ついでに
仔猫もしょっちゅう僕等の傍らにやってくる。
結局、仔猫併せて家族全員、ひとつの部屋で寝る事に!
そんな僕達だけど、もうすぐ我が家にもコウノトリが
赤ちゃんを連れて来てくれそな気配。
泉が、弟分が出来ると今から楽しみに赤ちゃんの
誕生を待ちわびている。
☆-★-☆ お・し・ま・い ☆-★-☆