真砂には泉という8才の弟がいて、学校が終わると自宅には
帰らず店に帰って来ているようで、とても仲が良い。いつも
昼食を摂る時間には、弟はまだ学校で見かける事はないが
外回りで昼食の時間がずれ込んだ時などに、時々姉にまとわ
り付いている弟を目にする事がある。
その日も外回りの仕事で昼食を摂るのが遅くなった。泉が
死にそうになって凍えている仔猫を拾って来た。飯屋の人の
善い夫婦も姉、真砂と一緒に顔を出し、どうしたものかと
思案に暮れていて、泉と真砂はきょうだい揃ってどーしよう
どーしようとオロオロしている。
オンボロアパートは飼えないのだろう。仔猫が可哀想で捨て
置く事も出来ず、悩む姉弟。
様子を伺っていた竜司が助け舟を出す。
「仔猫、僕の家に置いてあげるよ。だけど世話までは大変だ
から仔猫の様子はちゃんと毎日見に来てくれないかな。鍵は
作って渡しておくから、なるべく世話しに来てくれ。君達が
世話出来ないときだけは、仕方ないから僕が世話しよう。」
瘦せっぽっちで小さめの姉、真砂は弟、泉と併せて竜司の
目からは子供のように見えるので、どっちが仔猫なんだか~
と、ひとりごちた。
ふたりが仔猫の事で必死に頭を悩ませている姿を、竜司は
よるべのない仔猫に重ね合わせて見ていた。聞くところに
よると真砂たちは母親がシングルマザーで、その母親も過労
が原因で昨年亡くなったのだとか。真砂は小さな弟がいるので
普通の企業にOLとして就職出来なかったのかもしれない。
アルバイトでボーナスも出ず、生活は苦しいだろうにふたり
共明るくていい子達だ。雇い主の夫婦がふたりの事を何くれ
となく気にかけてくれる善良な人たちなのが救いだ。
仔猫の件で姉弟たちと繋がりが出来た。これも何かの縁、自分
は独身で自由のきく身、猫共々、このちっこいふたりの面倒も
見てやらねばなるまいと、心密かに思っている。
まだ大人になりきれていないふたりは、ある意味無邪気だ。
大人の入り口にいる真砂は、後数年したらいろいろと困難に
ぶち当たる事もあるだろう。その時は陰ながら助けてやろう
場合によっては足長おじさんにもなってやろうと思った。
ふたりと出会ってからの月日は言う程長くはないけれど、
そう思わせる健気さがふたりにはあったから。
ふたりはその日からしょっちゅう、仔猫の様子を見に来る様
になった。そんな中、竜司がいる時に真砂が1人で来た事が
あった。
「今度から家に来る時は弟と一緒に来な、」
「どーして?」
きょとんとして真砂が問う。
「どーしてもだっ。真砂は一応女の子だろ、悪い噂が立つと
君の為によくないからだよ。」
「そうなの?」 「そーだよ!」
「だけど竜司さん、おじさんだよ?」
「あぁ、そーだな・・そーだな・・おじさんだよっ 」o(`ω´ )o
「あっ、ごめんなさい、本当の事言って。」
「あのねぇ、・・まっ、いいや。おじさんだからよけい
良くないんだよ。こんなおじさんと変な噂立てられたら
困るだろう?」
「竜司さんがこまるンでしょ?あたしはこまんないもんっ!」
「こりゃこりゃ、グズグズ言わずおじさんの言う事を
聞けよ、いいな。」
「うん、判った。 なるべくひとりでこの部屋には来ない
ように気をつけます。」
「よろしい。」