「竜司、待てよ!さっきの話、聞いてたよ。お前の見合いに
黒崎さんやっぱり納得してなかったんだな?」
「僕が相談した時は見合いしている間、一時的に別れようっ
て言われたけど僕がふたりの結婚を母さんに認めさす為の
見合いだったって事は納得してくれていると思ってたンだ。
特に彼女はその時、僕等の別れについてっていうか母さんに
ぶつけられた暴言の事は言わなかったしね。
今考えると、もうあの時に僕とはやっていけない・・笠原家
には嫁げないって思ってたんだと思うよ。だから見合いの事
なんて今更どうでもよくて、反対もしなかった、そんなとこ
ろだったんだと思う。」
「それでどうするんだお前、それでいいのか、諦めていいの
か?お前は母さんに反対されたら諦めるようなそんな半端な
気持ちだったのか!実はな竜司、お前には言ってなかったが
俺と知沙子の結婚の時も母さんはやっぱり反対してたんだ
わ。」
「えっ、そうなの!」
「あぁ、ほんとにあんな母親持つとお互い苦労するな。
自分本位で自分の考えや物指しが一番で人の気持ちに添う
という事の出来ない人だ、あの人は。
結局俺は反対するならこの家を出る、知沙子との結婚を取る
って言ったよ。そしたら、何だかんだ言いながらも同居する
のならと、お許しが出たって訳。お前にはそういう覚悟は
ないのか?」
「兄さん、たぶん僕は自分の取るべき行動、どこでどんな
選択をしたら良かったのか、大きな間違いをしたんだと思
う。だけどあそこまで母さんが酷い事を顔合わせの時にし
ていたなんて予想もしてなかったからね。
反対して会わないって言ってたのに会ってみてもいいって
言ったんだぜ。誰だっていい方向に向かってるって思うだ
ろ。可能性があるって思うだろ?
なのにそんな僕や黒崎さんに対してあんな言動してたなんて
母さんがほんとに信じられないよ。」
そう言いながら、竜司は拳を握り締めた。
「黒崎さんから聞いただけじゃなくて、母さんの肉声で罵倒
を聞いた。耳を塞ぎたくなるような言動だったよ。あれ聞い
誰だって思うさ。誰がこんなヤツの息子と結婚するもんかっ
てネ。
もう僕は、黒崎さんに家を出るから・・母さんとは縁を切る
から・・結婚してくださいって言う事も出来なくなった。」
竜司は項垂れてそう言った。もう何も掛ける言葉はなかった。
万事休すだな。せめて今言っておいたほうがいい事をこの
落ち込んでいる弟がこの後も誤った選択をせぬように、告げ
ておかねば。
「ところで竜司、急だけど・・まだいつとは決めてないけど
母さんが家を空ける日に、知沙子と今の家を出て行こうと
思ってるんだ。」
「・・・・・。」
弟は予想してなかったのだろう、驚くばかりで言葉を出せ
ないでいる。
「人事じゃなくて、俺のほうも火の粉が飛んで来そうな按配
でな。手遅れになるところだった。母さんの今までの言動が
原因で知沙子が俺との離婚を考えていたんだ。
お前や黒崎さんに対する母さんのあんまりな言い草を聞いて
いるうちに、もしや?と思うところがあって、時間をとって
知沙子の今の気持ちを聞いてみたら・・まさかのまさかで
ビンゴだった。感が当たっててな。 知沙子が働き出した頃
からなんとなく思うところはあったンだよ。
父さんにも一応言ってある。もう住む家も大体目星はつけて
あって、決行日までに少しずつ、荷物を運ぶつもりにして
いる。
お前がもしちらっとでも家を出て行こうという気持ちがある
なら、俺達が家を出て行く前のほうが出て行き安いだろう?
そう思うから、決行日はまだ先だが今知らせとくわ。
俺達が居なくなった後じゃ、出て行きにくいだろ・・って
いうか、母さんが離してくれないだろうからな。」
「そっか、もう決定なんだね。義姉さんが可哀想だよな、
このままじゃ。僕も兄さんのように、ここっていう時に
決断力があったら、好きな人を失わずに済んだかもしれ
ない。」