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慎一さんと写真展に行った翌々日、設樂課長に写真展に
ふたりで出掛けた報告をした。
「あいつ、猫好きだからなぁ~。あぁ、それとあいつ独身だ
から」ぽそっと課長が言った。
「良かったら時々猫カフェとか付き合ってもらえたら喜ぶと
思うよ。男がひとりで猫カフェってちょっと痛いかもしんな
い・・。」
最後の言葉は聞き取れない位呟きになっていた。
側に他の職員が来たので、課長はそれきり仕事モードに入っ
た。
何気に聞いた"あいつ独身だから"の言葉は、私がずーっと
気になっていた事だ。ここで初めて何となくクリスマスパー
ティや初詣の家族ぐるみのお誘いは慎一さんと私の為のもの
だったのかもしれないと思い至った。
慎一さんを好ましく思っているのだから、このままこの流れ
に身を任せてしまいたい。慎一さん本人も、その兄である
課長も奥さんや子供達、それにご両親に至るまで皆善良で
素敵な人達だ。だけど・・・笠原くんの時と同じ。
私には、問題がある。2才年上である事、バツイチであるこ
と。課長は2年前に配属されてきた上司だ。私の事をどこま
で知っているだろう。
また同じような事で悲しい思いをしたくはない。慎一さんを
手放したくないほど好きになる前に彼からもう少し具体的な
アクションがあった時自分の身上を伝えておこうと思う。
しかしそうは言っても設樂家の面々を思い浮かべる度に不思
議なのだけれど何故か心震える未来が待ち受けているように
思ってしまう。
幸せが簡単に手に入らない事くらい、私はよく知っている。
なのに、どーしてこんなに心が震えるのだろう。今まで30
数年間生きてきてこんな気持ちになるのは初めてだ。
元夫との交際や結婚が決まった時でさえ、幸せを感じた瞬間
はあったけれど自分のまだ決まっていない未来に心振るわせ
た事は一度もない。まだ付き合ってさえいないのに、来るべ
き慎一さんとの未来に心震わせているのだ。
来るよ・・来るよ・・私にとって素晴らしいもの、ううん、
人?考えれば考えるほどこれって慎一さんと結婚して設樂
課長他、設樂家の一員になってクリスマスイヴの夜のよう
にずーっと幸せなメビウスの輪のような時間軸の中に入っ
て行くっていう事を指しているように思えてならなかった。
この想いが止まらない。私にはそういう何か予知出来る
能力なんてないけれど、ここっていう時に一度くらいそう
いった人智では計りきれない能力が人には備わっているの
かもしれない。・・とは言うものの、半信半疑でもいた。