「大好物って・・・ハハハッ。じゃぁ、家にあともうひとつ
好物が待ってるよ。ニャオっていう飼ってる子猫がね。」
『わぁ~楽しみ!残念ながらうちのマンションじゃ飼えない
んですよね。』
「黒崎さん、ニャオすっごく可愛いよ。すぐに寄って来てス
リスリするンだよ。おかあさん猫はね、ばぁちゃん家にいる
んだよ。」卓也くんが教えてくれた。
『おかあさん猫と離す時、大変じゃなかった?』
仔猫のニャオの話をひとしきりしている内に課長の豪邸に着
いた。100坪の敷地に50坪余りの家、りっぱな門構え。
玄関に入るとすぐにニャオが出迎えてくれた。人懐っこい猫
だ。すぐに側に来てミャアミャァ言うので抱き上げたんだけ
ど、大人しくしてくれたのでそのままニャオを抱いて皆さん
の待つリビングに通されてご挨拶をした。
課長のご両親の武士さんに玲子さん、奥さんの真智子さん
弟の慎一さん。
本当に信じられないけど、こんなに沢山のはじめましての
方々とのご挨拶だったのにすごくリラックスしている自分に
吃驚した。皆さんのね、何ていうか空気がとっても柔らかい
っていうか和むっていうか。自然体でいられる心地よさがあ
った。女性だけが頑張ってパーティーの準備をするのではな
くて皆一丸となってがポリシーのようでリーダーは設樂課長
と奥さんの真智子さん、おふたりの指令でパーティー開催を
目指して動くことになった。
買出しへは、私と慎一さんが任命された。私だけが何も知ら
ずにいたんだけど、このパーティーは課長を筆頭にご両親と
弟の慎一さん達の熱望によって実現された見合いだったのだ。
鈍感な私はしばらく、判らず過ごした。
何も知らされていなかったのが幸いして私は自然体でいられ
た。この時は慎一さんが既婚者なのかシングルなのかも判ら
なかったけれど課長に対する気持ちと同じような気持ちで感
じの良い人だなって彼を見ていた。穏やかな物腰でちょっと
した場面でやさしい性格が顔を覗かせる設樂慎一。こんな人
が伴侶だったらなぁ~、なんてね思った。でもこんな素敵な
人が独身のはずないわよねぇ~と、自分に突っ込み入れて。
子供たちもツリーを飾ったり食器を運んだりお料理を手伝っ
たり、その横でニャオがくっついて、そんな小さな子供たち
と仔猫の様子を間近で見ているだけで、すでにHappyな気分
になってしまった。皆ヤンヤヤンヤちっとも黙ってなくて「
あーそれそれ、それよ~」とかね、「あーあかねさん、これ
持っててくださいな・・」ってババ様の玲子さんからHelpを
頼まれたり「このスープの味見して貰えません?」と課長の
奥さんからお願いされたり、「黒崎さん、ごめん足りないも
のがあった。も一回慎一と買いに行って貰えないだろうか。
」と課長からの再度の指令が出たり。
なんか気が付いたらほどよい疲労感と共によいしょって感じ
で皆さんとテーブルについてて、そしてパーティーが始まっ
た。子供達や仔猫がきゃーきゃーワイワイ、みゃーみゃー言
うなかメインの食事の後、世代を越えて課長のご両親の昔話
に聞き入ったり、課長と奥さん私と慎一さんとで音楽や映画
の話題で盛り上がったりしてイヴを過ごした。
帰らなきゃいけない時間になると、まるでシンデレラ気分に
なっていた。不思議な気持ち、まだまだこの幸せな時間を続
けたかった。去りがたかった。
だけど時間は待ってくれない。22時になった頃、お暇する
ことにした。帰りは課長と奥さんが同乗してくれて慎一さん
の運転する車で自宅まで送ってくれることになった。