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竜司は兄からの助言もあったので母から提案された見合いの
事をあかねにそのまま正直に伝えるべきか、はたまた兄の言
うように内緒にしておくか随分と頭を悩ませた。
迷っているうち会社帰りにお茶する事も憚られるように
なってしまったが、いろいろ悩んだ末にあかねに見合いの件を
話す事にした。久しぶりの会社帰りのデートだった。顔合わ
せの日から1週間が過ぎていた。
『すぐに話ができなくてごめん。あの日は母が失礼な事を
質問して申し訳なかったね。』
「私のほうこそ、ちゃんとお返事できなくて申し訳なく
思ってます。」
『あれから母親との間で悩ましい事があって、考えがまとま
らずなかなか黒崎さんと話す機会を作れずにいたんだ。』
あかねは竜司がどんな提案をしてくれるのだろうかと、ドキ
ドキしながら次の言葉を待った。
『実はとんでもなく馬鹿馬鹿しい提案なんだけれど、その
提案を呑めば僕と黒崎さんとの結婚を考えてもいいと母が
言ってるんだ。あんまりバカバカしいから断ろうかとも思
ったんだけど受けてみようかと思ってる。』
「そのお母さんの提案ってどんなコトなの?」
『・・・ 見合い。』
「・・・ み・あ・い? 」
『うん、お見合い。』
「笠原くんと誰かのお見合いってことなのね?」
『何度かちゃんと見合いしてほしいって。それでいいと思う
人がいなければ黒崎さんとの事ほを考えてもいいって言っ
てるんだ。初めから気持ちもないのに見合いをするなんて
相手の方には申し訳ないけどね。僕も背に腹は代えられな
いからね。見合いすれば僕達の事を認めてくれるっていう
んならお安いもんだと思って。そういう事でしばらく休日
に会えなくなるかもしれないけど心配しないで待っててほ
しいんだ。』
あかねは考えもしなかった竜司の告白に体からどっと力が抜
けていくのを感じた。反対されるようなら家を捨ててでも私
と一緒になりたいと言ってたのでそのような流れの告白なの
かと期待していたけれど、全くの期待はずれ・・・どころか
もしかして最悪の告白かもしれないと思った。竜司はどこま
でも母親の心変わりを待つ事にしたらしい。
竜司の見合いは自分との結婚を母親に認めてもらう為のもの
そう主張する竜司の言い分に嘘偽りはないのだろう。けれど
万が一にも竜司が心惹かれる女性がその中に100%いないと
言い切れるのだろうか。もし心惹かれる女性に出会ってしま
ったら。
竜司とあかねにとって竜司が見合いをするということは、時
として諸刃の剣となる可能性もゼロではないのだ。きっと彼
はその事に気付いていない。
『私と付き合ったままでお見合いするのは二股に
なるわよ!』
「えっ!! 思いつきもしなかったけどそう言われれば
そういう事になってしまうね。」
そう言ったきり竜司はだまってしまった。
次の言葉を紡ぎ出せない彼に私は手を差し伸べる。
『竜司さんのお見合い行脚が終わるまで私たち一度お付き合
いを止めて中断するっていうのはどうかしら?そうすれば
二股った事にはならないし、何の問題もないでしょ?』
「デートも無しでそれまでは会わないってことだよね。」
『そんなに先の事じゃないでしょ?それとも随分会えないほ
どたくさんお見合いするつもりなの?』
「もちろん僕としては2~3回位すれば母も納得してくれると
思ってる。だから2ヶ月位の事で済むと思う。」
竜司は本当に2ヶ月程かけて2~3人の相手と見合いして政恵
と決着をつけられると思っているようだ。竜司の自分に対す
る気持ちは良く理解しているつもりだが実際現実問題として
見合いをし、その中から自分に相応しい女性がいないなら私
との結婚を考えてやってもいいとの政恵の提案について、こ
れがどれ程あかねを侮辱した行為であるのか、竜司がそこの
部分に付いて全く考えが及ばない事にもかなりガックリきた
あかねだった。
最悪、竜司にあかね以上に心惹かれる女性が出現した場合
あかねは必然的にお払い箱。数人の女性の中に気に入った
女性が見つけられなかったらあかねと結婚。あかねとの結
婚の為に決めた竜司の見合い。頭では判っているつもりだ
が心が付いて行かない。
ともかく形式だけの事で実際には違うのだからと言われても
二股にされるのはあまりに惨め過ぎるのではないか。とにか
くここで竜司との交際を、形式上だけのものとしても終了さ
せておきたかった。