(Real 話から創作)
娘まで手放してなんとか自分自身の立て直しをと、懸命に
過ごしてきたけれど、瑛との夫婦としての距離は如何とも
し難いものだった。
当然の理だ。瑛との夫婦としての修復への努力など何一つして
いないのだから。
あの日から夫を避けるばかりの日々を過ごしてきた。
正看に復帰した日から3ヶ月後に私たちは離婚した。
瑛からの反対はなかった。
仕事と酒に逃げて彼と向き合おうとしない妻、娘さえも
手放してしまった女・・・に打つ手など無いという事
だろう。
呆気ないほど、簡単に進んだ離婚だった。
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*・:+.。oO 最後の夜 oOo+.:・*.oOo。+.:・*
-----瑛-----
一緒の部屋で寝てくれないか?
-----亜佳里-----
・・・・・・・・(なんて応えればいい?)
-----瑛-----
頼む、断らないで・・・・。
-----亜佳里-----
私は自分の布団を寝室に運びました。(これがわたしの答。)
私たちが同じ部屋で寝るのは一年と数ヶ月振りのことでした。
私が入浴を済ませて部屋に入ると夫はすでに布団に横たわって
いた。私もすぐに自分の布団に入った。
どれくらいの間だったのか。
長い沈黙の後に夫が云った。
「君が眠りにつくまで、手を繋いでいたい」と。
同時に夫の手が私の手を捕らえた。大きくて暖かい懐かしい
私の知っている手だった。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
こんな未来を望んでいた訳じゃない。
大好きな夫とずーっといつまでも一緒に人生を生きて
いきたかった。そんな想いに捉われながらもやり直したいと
いう気持ちにはならず、日中の疲れもあって私はやさしい手
の感触を子守唄代わりに夢の中へ入っていったようだ。
-----瑛-----
今の私は自分が思っていたより何倍も何十倍もあかりから
強く想われていた事を知っている。そして自分で思っていた
よりも何倍も何十倍もあかりを愛していた事を知っている。
いつだったか『年が往っても仲の良い夫婦でいようね。』
って彼女が微笑んで約束してくれた事があったなぁ・・・と
思い出した。
次から次へとあかりが私を大切にしてくれた一瞬一瞬が
走馬灯のように私の脳裏を駆け巡って往く。
楽しかった頃の事にツラツラと思いを馳せていたら
隣から健やかな寝息が聞こえてきた。
妻が体勢を変えたのをキッカケに私の手の中から妻の手が
抜けてしまった。もうすぐ、私の傍から妻がいなくなって
しまう。
こんな胸の痛みは知らなかった。知らずに済んだはずの
痛みを抱えながら、私は次の朝を迎えた。
翌日、妻はこの家を出て行った。
-----瑛-----
元気で・・・。
-----亜佳里-----
あなたも。
-----瑛-----
あかりの表情は私とは対照的に晴やかで、
何かを吹っ切った人の顔でした。